先輩就農者体験談

ぶどう農家(H24年就農/勝央町)
安藤 宜孝 さん

高校教師からぶどう農家に

勝央町ののどかな中山間地域にある「安藤農園」は、ぶどうをメインに栽培する農園のほかに、ぶどうを栽培する楽しさ・収穫が体験できる観光農園を営んでいます。園長の安藤宜孝さんは、私立高校の保健体育教師から農家へ転身した異色の経歴の持ち主。安藤さんはどんな思いで岡山へやってきて就農したのか。そのストーリーをお届けします。

岡山でぶどうの師匠と出会い、このひとのように輝きたいと願う。

▲建築デザイナーにお願いした倉庫は、作業小屋として使われるだけでなく、屋外イベントなども開催

移住して就農。ハードルが高いように思える2つの大技を成し遂げた安藤さん。大阪府大東市で生まれ育ち、大学進学で愛知県へ移り住み、教師として赴任したのは東京都でした。

体育教師としての仕事はやりがいもあり、楽しかった。けれど、定年まで、教師を続けていくイメージが描けなかったのが正直なところだという安藤さん。
「自分で経営をしてみたかったんです。どんな規模でも、経営者になりたかったんです」と当時を振り返ります。
他にもっと「天職」があるのではないかと思うようになります。そして、その先はなにをやるかまったく決めないで、一旦リセットするために教師を退職。職を辞して、己を見つめ直す時間。安藤さんが35歳のことでした。

「なにもない状態で1ヶ月間悩み、与那国島など、点々と旅をしました。ひょんなことから岡山県のぶどう農家に流れ着きました(笑)」
たどり着いた先は、岡山県・勝央町。次の道を模索する中で、農林水産、第一次産業すべて考えたなか、農業がひらめいたといいます。その流れで、岡山県の就農相談会に参加します。そこで「新規就農研修制度」を知り、運命の出会いを果たします。

「後の師匠となる農家の方と勝央町で出会います。この方の人間性に衝撃を受けたんです。惚れたんですね。東京にいるときに感じることができなかったものを師匠から感じました。ものすごくキラキラして、オーラがありました。このひとが20年、30年続けている仕事を自分のやってみたいと思うようになります」
安藤さんの師匠(受入指導農家)は勝央町屈指のぶどうづくりの名手。技術的にもトップレベル、そして人間性も素晴らしい。「ひととして輝きたい」と願い、指標となるひとに出会い、安藤さんは、岡山での就農を決意します。

※師匠とは新規就農研修事業における就農希望者を指導する受入指導農家。

目指すは「農業経営者」
それは高い技術者とイコールになる

▲優しい手つきでぶどうの様子を見守る安藤さん

岡山県は、安藤さんの父親が津山市出身で、祖父母の実家があり、まったく知らない土地ではありませんでした。「勝央町は津山市の隣だったので、どこか運命を感じます」。

安藤さんは平成23年4月から1年間。新規就農研修制度を使い、岡山で農業を学びました。1年間で修行をきりあげて、ぶどう農家として独立。研修は最長2年ですが、1年間のみだったのは、ぶどう園を師匠から借りることができたことが大きい。「師匠の近くの畑だから、やりながら技術も教えられるからと、早めに就農できたのは幸運でした」。就農希望者は1日でも早く農業を始めたい。安藤さんはその人柄と努力によって、それを成し遂げます。
しかし、就農してからが本当の試練だったといいます。就農時、借り入れはないものの、設備費に自己資金を投資して、資金はほぼゼロに。さらに就農1年目は教員時代の給料の1/10の収入に落ち込みました。

農業でお金を稼ぐ難しさを知りました。これが経営の世界なのかと洗礼を受けた安藤さん。農家はぶどうをつくる技術だけではなく、売る方法も考えなければいけない。自分でつくったものを売る方法を確立することが、安藤さんにとって、本当の意味で「就農」を果たすことでした。
「新規就農を果たした1年目の収入の少なさにショックだったので、きれいごとだけ言っていられないと思いました。自分がつくったものを確実に売らないと」

そしてもうひとつの希望が「自分の値付けで売りたい」ということ。それは安くても高くても自分が決めた値段で売りたいという気持ちがありました。その信念は販路を引き寄せます。安藤さんは基本的にひとりでぶどうづくりをしているため、どうしてもつくれる数に限りが出てきます。彼の農業スタイルに合う販路が自然と声をかけてくれ、現在は6つの販路を確保。なによりも特徴的なのは、安藤さんは、つくったぶどうの9割を直販で売ります。売り方にこだわることも「経営」です。

現在、安藤農園ではピオーネとシャインマスカットなど5種類のぶどうを栽培しています。
「ピオーネとシャインマスカットは、師匠と相談して、岡山のぶどう定番品種を育てようということになりました。技術面としてつくりやすく、単価も安定している。新規就農者にぴったりです。つくってみたい品種はたくさんあります。発送や納品中心だと、やっぱりメジャーな品種が中心のものづくりになりますが、直販だと品種でお客さんが来てくれるならば、逆に面白い品種を扱うことができます。そこもおもしろいです」
 経営と挑戦の試行錯誤を繰り返す今の働き方こそ、安藤さんの夢。
「全部楽しいです。おもしろいですよね。自分の思うがままに動ける、時間の制約もありません。収穫のときは追われますけれど、お金が入ってくると思うと頑張れる。しんどいことも結果につながることがわかっているので、乗り越えられます」
教師として働いていた頃と180度違う、「自分の判断」がすべての世界が農業なのです。
「考えることが多くて、工夫してみたらぐっと収入があがったり落ちたり」と笑顔を見せます。最初は、たくさん実をつけて、たくさん売ればいいと、単純に考えていました。そうじゃなかった。いかにぶどうを基本に忠実につくり、ぶどうの価値をあげて1つあたりの単価をあげることが最終的な収入アップにつながります。近道はありません。でもそれがまた面白い。面白いしもどかしいし」

少量多品目の果樹園を開いて、作り手と消費者をつなぐ

▲安藤農園を支える人々。安藤さんのご両親も繁忙期にはお手伝い

プライベートでは、岡山で結婚したことが大きい安藤さん。「嫁さんができて、よけい頑張らなきゃいけないという気持ちになりました。気合が入りました」
2歳の男の子と0歳の女の子と子どもにも恵まれ、この地に根を下ろして暮らしています。そんな安藤さんの将来の夢を伺うと「色々な果樹が収穫できる果樹園をやりたい」とのこと。
「少量多品目の果樹園が出来たらいいなと思っています。いつでもいろいろな果物が収穫できるって豊かですよね。それって楽園だなぁって思います」。そう言って笑う安藤さんは、作り手と消費者をつなぐような農業を目指したいと目を輝かせます。岡山で自由を手に入れた安藤さんのつくるぶどうは、きっと、今年より来年、そして未来、どんどん美味しく実っていくことでしょう。

(TEXT:ココホレジャパン)

就農までのポイント

・ 勝央町(岡山県)を就農地に選んだ理由
自分で経営することに関心があり、その中で農業を選択した。県が開催する就農相談会や現地見学会を通して受入指導農家に会い、その人間性に惚れた。

・ 農地の確保について
受入指導農家の紹介で最初は8aから始め、その後規模を拡大し現在は70aの農地で経営している。

・ 資金の確保について
施設や機械の整備は自己資金で準備した。現在も、資金の借入はない。

・ 技術の習得について
研修で技術習得した他、最初に借りた畑が受入指導農家の近くだったため、分からないことを聞きながら技術を習得した。

・ 相談相手は
技術的なことは農業普及指導センターの職員に聞いている。受入指導農家からは技術的なことだけでなく様々なことを相談した。また、産地には同じような新規参入者がおり、その都度相談にのってくれた。

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